『いやだいやだ』

イヤイヤ期に寄り添ってくれる一冊

イヤイヤ期は、ママもパパもどうしたらいいのか分からなくなってしまう時期ですよね。「いやだ」と自分の気持ちをはっきり言えることは成長のうえでとても大切だと分かっていても、毎日のように続くと大人の心が追いつかなくなる瞬間があります。受けとめたい気持ちと、余裕がもてない現実とのあいだで揺れながら、どう向き合えばいいのか分からなくなってしまう日もありました。そんな時期にわたしはこの絵本を、まるで何度も立ち返る場所のように開いていました。

3人の子どもと過ごしたイヤイヤ期で見えてきたこと

私には3人の子どもがいて、それぞれのイヤイヤ期を一緒に過ごしてきました。毎日泣いたり怒ったりしながら成長していく姿に寄り添う一方で、こちらの気持ちが追いつかなくなることもありました。「どうしてこんなに『いやだ』が続くのだろう」「わたしのやり方が悪いのかな」と、自分自身を責めるような気持ちになったこともあります。

絵本の最後、ルルちゃんが涙をこぼす場面を読むたびに、胸の奥がきゅっとなるような思いがしました。当時のわたしは「イヤイヤしていたらみんなが離れてしまうから、イヤイヤしないでほしい」という願いを心のどこかに抱えながら読んでいたように思います。今振り返れば、その不安は子どもではなく、わたし自身が抱えていた孤独や焦りだったのだと気づきます。

「いやだ」を受け入れてみたときに起きた変化

ただ、この絵本を読めば状況が変わるわけではありませんでした。むしろ子どもはますます楽しそうに「いやだ」を言い続け、わたしは戸惑いながらページをめくっていました。それでも子どもは「読んで」と絵本を繰り返し持ってきます。何度も読んでいくうちに、わたし自身の中で少しずつ変化が生まれました。「また言ってる」と思っていた言葉が、「今日も言えるだけ元気なんだな」と受け止められるようになり、いつのまにか一緒に「いやだ」を笑って言えるようになっていたのです。

不思議と、大人が受け入れると子どもはゆっくり落ち着いてくることがありますよね。その経験を通して、子どもの「いやだ」も、わたしの「もう無理」という気持ちも、誰かに受け止めてもらえるだけで少しやわらかくなるのだと気づきました。この絵本は、そんな心の変化をそっと支えてくれた大切な存在です。

絵本紹介

『いやだいやだ』

作:中川李枝子
絵:山脇百合子
出版社:福音館書店

『いやだいやだ』は、主人公のルルちゃんが、家の中のいろいろな場面で「いやだ」と気持ちをはっきり表す姿が描かれた絵本です。ルルちゃんは食べ物にも、支度にも、大人の言葉にも、とにかく「いやだ」と全身で表現します。その様子は読んでいる大人からすると「分かる、あるある…」と思わず苦笑してしまう場面の連続ですが、同時に「こうやって気持ちを外に出すことが大事なんだな」と気づかせてくれます。

物語の中で、ルルちゃんがどれだけ「いやだ」を言っても、周りの人たちは淡々と反応し、状況が大きく変わるわけではありません。けれど、そのくり返しの中で、ルルちゃん自身の気持ちが少しずつ揺れ動いていきます。最後のページで涙をこぼす場面は、小さな子どもが抱えている「本当はわかってほしい」という思いにそっと触れられる瞬間でもあります。

山脇百合子さんの絵は、はっきりとした線と色づかいで、子どもにもとても分かりやすく、感情の動きが伝わりやすいのが特徴です。場面ごとのルルちゃんの表情がとてもリアルで、「いやだ」という言葉の裏にある気持ちが自然と読み手の中に入ってきます。短く読みやすい絵本ですが、イヤイヤ期の子どもと関わる親にとっては、何度読んでもハッとさせられる奥深さがあります。

おすすめする理由

いろいろな感情があっていいと思える

子どもの「いやだ」を否定せず、感情そのものを受け止める大切さに気づかせてくれます。

大人の「いやだ」も肯定してくれる

大人も「本当はいやだ」と思う瞬間があることを、静かに許してくれます。

「いやだ」の先にある気持ちを想像できる

言葉の奥にある「わかってほしい」気持ちに自然と目が向きます。

くり返し読むうちに心が落ち着いていく

絵本の中で「いやだ」をたくさん聞くと、不思議と余裕が生まれてきます。

メリハリのある絵で子どもにも理解しやすい

表情が分かりやすく、イヤイヤ期の子どもも感情移入しやすい絵本です。

読み合いのヒント

「いやだ」を笑って一緒に言ってみる

深刻になりすぎず、遊びのように読むと気持ちがラクになります。

読み終わったあと急いで気持ちを聞かない

静けさの中で、子どもが自分で落ち着く時間が生まれます。

子どもの表情の変化をそっと見守る

言葉よりも表情で気持ちを示す時期だからこそ、観察が大切です。

まとめ

「いやだ」という言葉の中には、「見てほしい」「わかってほしい」という気持ちがかくれています。子どもが安心して「いやだ」と言えるのは、信頼している証なのかもしれません。『いやだいやだ』は、そんな小さな心の動きをやさしく受け止めてくれる絵本です。読み重ねるうちに、子どもの「いやだ」も、大人の「もういやだ」も、少しずつ笑いに変わっていきます。読んだあとには「それでもあなたが好きだよ」と自然に抱きしめたくなる、親子の気持ちをそっと整えてくれる一冊です。

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