コーヒーは、憧れの味だった
小さい頃、祖父と母と三人で、喫茶店の同じテーブルに座っていました。
わたしの前にあるのは、いつもミックスジュース。
背伸びをして一口もらってみても、苦くて、すぐに返してしまった記憶があります。
祖父と母は、美味しそうにコーヒーを飲みながら、静かに話をしていました。
その様子を間近で見ながら、「大人になったら、コーヒーをおいしく飲めるようになりたい」そんなふうに思っていました。
憧れは、日常の味になった
大学に入って、喫茶店でアルバイトをするようになりました。
最初は覚えることばかりで、コーヒーの味をゆっくり考える余裕はありませんでした。
それでも、豆の名前や香りに少しずつ慣れていくうちに、「おいしい」と感じる瞬間が増えていきました。
いつのまにか、一杯のコーヒーが一日の区切りになり、気づけば、毎日欠かせないものになっていました。
その日の気分に、そっと置かれるもの
カフェで飲むコーヒーには、家で飲むものとは違う静けさがあります。
席に着いた瞬間から、空間ごと、ゆっくりと味わう準備が整っていきます。
運ばれてきた一杯から立ちのぼる香りは、その場の空気と混ざり合い、気持ちの輪郭にそっと触れます。
ひと口含むたび、味の奥行きが広がり、心の中にあった細かなざわめきが、自然にほどけていきます。
香りが立ちのぼり、気持ちは、余分なものを手放していく。
とても贅沢な時間です。
絵本紹介
『モカと幸せのコーヒー』
作:刀根里衣
出版社:NHK出版
この絵本は、コーヒーの香りに包まれた、不思議な世界を舞台にした絵本です。
やわらかな色彩と繊細な描写が重なり、ページをめくるごとに、静かな時間が流れていきます。
物語は、「ぼく」の前に白く小さなうさぎのモカが現れるところから始まります。
足の生えたカップや角砂糖、コーヒー豆たちに囲まれながら、モカは「ぼく」を迎え、コーヒーのある場所へと導いていきます。
エスプレッソやカプチーノなど、いくつかのコーヒーが登場し、その場の空気とともに物語が進んでいきます。
コーヒーの時間を重ねる中で、「ぼく」は胸の奥にしまわれていた思いや記憶に、少しずつ触れていきます。
一杯のコーヒーとともに流れる時間が、物語として静かに重ねられていきます。
読み終えたあとには、コーヒーの香りや、あの空間の気配が、そっと心に残ります。
日常から少し距離を置き、静かな余韻を味わいたいときに手に取りたくなる一冊です。
お店におすすめの理由
コーヒーのある空気を、静かに伝えてくれる
棚に置かれているだけで、その場所に、コーヒーの香りを想像させる余白が生まれます。
一杯の時間を大切にする店の姿勢が、言葉を使わずに伝わってくるような一冊です。
手に取る前から、ひと息つける存在
表紙のやわらかな色合いや、ページに流れる静かなリズムが、お客さまの足取りを少しゆるめてくれます。
「読むため」だけでなく、その場にいる時間を味わうきっかけになります。
カフェという場所の物語を、深めてくれる
コーヒーを扱う店にとって、一杯の背景や気配を伝えることは、大切な要素のひとつです。
この絵本は、「飲む」ことの奥にある時間や感覚を、さりげなく補ってくれます。
大人が立ち止まれる棚をつくる
絵本でありながら、大人の手にも自然に収まります。
忙しさの合間に、ふと視線を落としたくなる棚づくりに、静かな厚みを加えてくれます。
まとめ
一杯のコーヒーがあるだけで、その場の空気が少し変わることがあります。
『モカと幸せのコーヒー』も、そんなふうに、置かれている場所の時間をやさしく整えてくれる絵本です。
棚の中で、テーブルのそばで、静かにその存在を感じてもらえたら。
コーヒーのある店に、そっと置いておきたい一冊です。
🤍 この絵本について、ひとこと
一文だけでも大丈夫です。
「この場面が好きでした」
「誰かに贈りたくなりました」など、
短い言葉を残していただけたら嬉しいです。


コメント