『まてまてタクシー』

ことばが園の中を走り出す

保育園で絵本を読み終わったあとも、「まてまてタクシー」という音のリズムが、子どもたちの中に残っていました。
歩きながら、片づけをしながら、ふとした拍子に口に出るそのことば。
一人が言うと、別の子が続き、また別の場所から声が重なります。
意味を考えるより先に、音そのものが遊びになり、絵本の時間が、日常の動きの中へと静かにつながっていきました。

見つける視線が、ページを行き交う

たくさんのタクシーが並ぶ場面では、自然と身体が前に寄ります。
「あっちかな」「ここかも」と、指さしや視線がページの上を行き交い、見つけた瞬間の声が、次の子の目線を動かしていきます。
一人で答えにたどり着くというより、同じページを囲みながら、発見の気配を分け合っている時間でした。

きちんとした姿に、笑いがこぼれる

登場した瞬間から、どこか背すじが伸びたような雰囲気のあるハットさん。
その姿を見つめる子どもたちの視線と、思わず表情がゆるむ大人の空気が、同時に生まれます。
少しそそっかしい動きが重なるたびに、くすっとした気配が広がり、子どもと大人の笑いどころが、同じところで重なっていきました。

絵本紹介

『まてまてタクシー』

作:西村敏雄
出版社:福音館書店

タクシーを降りたあと、ハットさんは大切なものを車内に忘れてきたことに気づきます。
走り出すタクシーを追いかけて、道は街から牧場へ、坂道へと続いていきます。
牛の背に乗ったり、ころころ転がったりしながら、視界は次々と切り替わり、やがて大通りに出ると、同じようなタクシーがずらりと並びます。
追いかけたその先には、思わず顔がゆるむような、ちょっとおいしい場面が待っています。

おすすめの理由

ことばのリズムが、場をつくる

「まてまてタクシー」という繰り返しは、読む人の声に自然な抑揚を生みます。
声に出すたび、追いかける動きが前へ前へと進み、読み手も聞き手も、その流れに身を預けることになります。
文章を追うというより、リズムに乗ってページを進めていく感覚が、読み合いの時間をひと続きの体験にしてくれます。

動きのある絵が、視線を誘う

街、牧場、坂道と、場面が切り替わるたびに、視線の行き先も変わります。
牛の背中、ころがる身体、並んだタクシー。
どこを見ても動きがあり、ページの中に「追う理由」が散りばめられています。
一枚の絵をじっと見る時間と、次を急ぐ気配が交互に訪れ、読む速度そのものが、物語に組み込まれていきます。

大人の余白が、静かにひらく

きちんとした身なりの主人公と、少し行き当たりばったりな展開。
その組み合わせが、物語にほどよい抜けをつくります。
子どもは動きを追い、大人はその様子を少し離れたところから眺める。
同じ絵本を開きながら、受け取る位置が少しずつ違うことが、読み合いの時間を、穏やかに深めていきます。

まとめ

声に出すと、ことばが走り出し、ページを追うと、視線も一緒に動きます。
子どもと大人が、同じ景色を見ながら、それぞれのところで、ふっと笑う時間。
そんな一冊を、そっと開いてみてください。

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