ずっと手元にあった一冊を、あらためて開いた
この絵本に出会ったのは、二十年ほど前のことです。
そのときも、素敵な絵本だと思い、大切に手元に置いていました。
ただ、当時は物語を深く追うというより、「好きな絵本の一冊」として、本棚に静かに並んでいた存在でした。
年月を経て、久しぶりにページを開きました。
同じ本なのに、以前よりも、読む速さがゆっくりになっていることに気づきました。
読み進めるほど、胸がきゅーっとなっていった
ゆっくりと読み返していくうちに、胸の奥がきゅーっと締めつけられるような感覚がありました。
切なさが、ページをめくるたびに、少しずつ重なっていく。
赤いとうだいの姿を追いながら、いつのまにか、自分自身を重ねて読んでいたのかもしれません。
若い頃には気づかなかった感触が、今は、静かに浮かび上がってきました。
「きょうだいよ」という言葉に、立ち止まった
切なさを抱えたまま、ページを追っている途中で、「きょうだいよ」という言葉に出会いました。
その行を読んだ瞬間、胸にたまっていたものがほどけ、胸の奥があたたかくなりました。
ああ、よかった。
まだ、ちゃんと届いている。
必要とされているという感触が、言葉ではなく、そのまま残りました。
そのとき、自分の心のほうが、静かに元気づけられていました。
絵本紹介
『ちいさな赤いとうだい』
文:ヒルデガード・H・スウィフト
絵:リンド・ウォード
訳:掛川恭子
出版社:BL出版
舞台は、ニューヨークのハドソン川沿い。
川べりに立つ、ちいさな赤いとうだいは、長いあいだ、行き交う船のために光を灯し続けてきました。
やがて、そのそばに大きな灰色の橋が建設されます。
橋が完成すると、とうだいの光は、以前ほど必要とされなくなっていきます。
赤いとうだいは、場所を離れることもなく、同じ場所に立ち続けます。
町の景色が変わり、役割が変化していく中で、とうだいの時間だけが、静かに流れていきます。
物語の終盤、橋は赤いとうだいに向かって「きょうだいよ」と呼びかけます。
「在り続けてきたもの」に、そっと光が当たるような場面です
この絵本は、役割が移り変わる世界の中で、変わらずに立ち続けてきた存在の時間を、淡々と、そして丁寧に描いています。
高齢者へのギフトとしてすすめする理由
「もう必要とされていないかもしれない」と感じる時間に、そっと寄り添うから
年を重ねると、自分が担ってきた役割や立場が、静かに遠のいていく瞬間があります。この絵本の赤いとうだいも、まわりの景色が変わる中で、自分の居場所を見失いそうになります。それでも物語は、その気持ちを否定せず、置き去りにもせず、同じ速度で進んでいきます。
「まだここにいていい」そう感じられる余地が、ページの中に残されています。
役に立つかどうかで、人を測らない物語だから
この絵本は、役に立っているか、役割を果たしているか、そんな尺度で登場人物を見ません。
小さな赤いとうだいも、大きなはしも、比べられることなく、それぞれの存在として描かれています。
「何ができるか」ではなく、「ここに在ること」が、そのまま物語になっている一冊です。
呼ばれることで、もう一度、場が動き出すから
物語の中で、赤いとうだいは、光を灯さなくなっている時間を迎えます。
その沈黙に向かって、はしから言葉が投げかけられます。
誰かに必要とされることが、静かに場の流れを変えていく。
その瞬間が、物語の中に置かれています。
贈り方のヒント
絵本と一緒に添えられる、やさしい一言メッセージ
長いあいだ、見えないところで灯してきた光へ
「あなたが照らしてくれた道が、いまも私の中に残っています。」
役目が変わった今、そっと手渡したいときに
「いつもそばで、やさしい光を届けてくれてありがとう。」
離れていても、つながりを感じてほしい相手へ
「同じ場所にいなくても、あなたの光は届いています。」
言葉にしきれない感謝を込めて
「あなたと重ねた時間が、これからも私を照らしてくれます。」
これからの時間に、静かに寄り添いたくて
「無理をしなくても、光は消えないと、この絵本が教えてくれました。」
まとめ
誰かのために灯してきた時間は、気づかれないまま過ぎていくこともあります。役目が変わっても、その光が消えたわけではありません。
この絵本は、「もう十分だった」と言う代わりに、「まだ、ここにいる」とそっと示してくれます。必要とされることは、呼ばれることで、あらためて確かになることもある。
そんな時間を、静かに手渡したいときの一冊です。


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