人の目を気にしながら、言葉を選んでいた時間
わたしは、人の目をまったく気にしないわけではありません。
よく思われたい、波風を立てたくない。
そんな意識が、いつもどこかにあります。
「人は人」という言葉を何度も聞いてきましたが、実際の場面では、そんなふうに割り切れないことも多くありました。
同じ方向を向いているはずなのに、ずれていく感覚
立場が違えば、感じ方が違います。
それぞれの言い分があり、良くしたいという思いは一致していました。
それでも、話が進むほどに、向いている方向が真逆に見えてしまう瞬間がありました。
どちらが正しいとも言い切れず、簡単に整わない感触だけが残ったことがあります。
発想が変わると、見え方が少し変わる
この絵本を読んで、物事の捉え方は一つではないのだと感じました。
無理に答えを出さなくても、見方を変えることで、受け取り方が変わることがあります。
ページをめくる中で、紫色からピンクへと変わっていく色を眺めながら、さっきまでとは少し違う距離で、自分の気持ちを見ている感覚がありました。
絵本紹介
『ころべばいいのに』
作:ヨシタケシンスケ
出版社:ブロンズ新社
『ころべばいいのに』は、ある「きらいな人」のことを思い出してしまうところから始まります。頭の中では、その人が失敗したらいいのに、転べばいいのに、という気持ちが次々と浮かび、想像はどんどんふくらんでいきます。
けれど同時に、そんなことを考えている自分に気づいて、「この時間がもったいない」と思う自分も出てきます。
そこで主人公は、その気持ちをなかったことにするのではなく、どうしたらこの考えの流れから抜け出せるのか、別の見方や考え方を試していきます。
嫌な気持ちを立派に片づけるのではなく、考えの向きを変えながら、自分の中で扱える形にしていく。その過程が、ユーモアを交えつつ描かれている一冊です。
おすすめの理由
感情を「よい・わるい」で仕分けしないところ
この絵本は、心に浮かんだ感情を評価しません。
正しいかどうか、成熟しているかどうかも問われません。
ただ、そんな気持ちが生まれること自体を、自然なものとして並べていきます。
自分の感情を裁かずにいられる時間は、大人になるほど貴重です。
考えが堂々巡りする感覚を、そのまま描いているところ
頭の中で同じことを考え続けてしまう感覚は、誰にでも覚えがあります。
この絵本は、その「止まらなさ」を無理に断ち切りません。
考えが巡る様子をそのまま外に出すことで、読み手は自分の内側を少し引いて眺めることができます。
深刻になりすぎず、距離をつくれるところ
扱っているのは、決して軽い感情ではありません。
それでも、この絵本には重たく沈み込まない余白があります。
ユーモアのある視点が差し込まれることで、感情と自分のあいだに、ほんの少しの間が生まれます。
その距離があるからこそ、読み終えたあとも、自分の気持ちを抱えたままでいられます。
まとめ
この絵本は、人と関わる中で生まれる、扱いにくい気持ちや、うまく整理できない感情が、日常の中に確かにあることを示しています。
感情を正そうとすることでも、なかったことにすることでもなく、考え方の向きを少しずらしてみるという選択に気づかされます。
誰かとの間で言葉にできなかったこと、自分の中に残ったままの違和感。
それらを抱えたままページを閉じてもいいのだと、そっと示してくれる一冊です。


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