「かもしれない」という言葉に、立ち止まった日
本屋でこの絵本を見かけたとき、最初に心に残ったのは、タイトルにある「かもしれない」という言葉でした。
はっきり言い切らないその響きが妙に気になり、本をひらいたことを覚えています。
あのとき感じた小さな引っかかりが、この絵本との長い付き合いの始まりでした。
子どもたちの表情が変わった瞬間
勤めていた小学校では、この絵本はとても人気がありました。
貸し出されるとすぐに次の予約が入り、なかなか手元に戻ってこない時期もあったほどです。
そこで自分の絵本を持って行き、読み聞かせをすると、子どもたちの顔が一斉にゆるみ、笑いをこらえる子や、思わず吹き出してしまう子がいました。
図書室の空気がやわらかくほどけていく、あの時間の感触は、今でもはっきりと残っています。
想いがつながって、また手渡したくなった
その後、保育園で読んだときも、子どもたちは絵本に吸い込まれるように見入っていました。
年齢や場所が変わっても、この絵本が生み出す集中と笑いは変わりません。
この絵本に出会ってから、ものの見方が、少しだけやわらかくなった かもしれない。
★最近、ご縁の中で「この絵本が好き」と聞けたことが、私にはとても嬉しく、あらためて、この一冊を紹介したいと思いました。
こうして書くきっかけをくれた出会いに、静かな感謝の気持ちを抱いています。
絵本紹介
『りんごかもしれない』
作:ヨシタケシンスケ
出版社:ブロンズ新社
テーブルの上に、ひとつのりんごが置かれています。
男の子は、そのりんごをじっと見つめて、こう考えます。
「これ、りんごじゃないかもしれない」
そこから、目の前のりんごをきっかけに、「中身がちがうかもしれない」「別のものかもしれない」と、次々に想像が広がっていきます。
形は同じでも、見えないところでは何が起きているかわからない。
そんな発想が、ページをめくるたびに展開していきます。
けれど、物語の始まりにあったりんごは、最後のページでも、同じ場所に、同じように置かれています。
見た目は何ひとつ変わっていないそのりんごを前に、読み手の側だけが、少し違う視点を持ったまま、物語を閉じる構成になっています。
おすすめの理由
絵を見ているだけで、つい笑ってしまう
この絵本の面白さは、言葉だけではなく、絵の中にもたくさん隠れています。
よく見ると、「そこまで考える?」と思うような細かいところまで描かれていて、気づいた瞬間、思わず表情がゆるみます。
一度読んだあとでも、ページを開くたびに新しい発見があり、「さっきは気づかなかった」が何度も起こります。
ただ眺めているだけなのに、楽しい。
その感覚が、この絵本を何度も手に取りたくさせます。
同じものを見ているのに、見え方が変わっていく面白さ
最初から最後まで、目の前にあるのは同じりんご。
けれど、ページをめくるごとに、「見えているもの」は少しずつ違って感じられます。
ひとつの答えにたどり着くのではなく、見方が増えていくことそのものが楽しくなっていきます。
自分の考えを大切にしながら、となりの人の見方にも、自然と心が向いていきます。
大人と子どもが、同じ場所に立てる
この絵本を読んでいるあいだ、大人は「知っている側」ではいられません。
子どもと同じようにページを見て、「どうかな?」と一緒に考えます。
同じものを前にして立ち止まる時間が、読む場の空気をやわらかくし、読み終えたあとにも、静かに残ります。
まとめ
この絵本は、読むたびに小さな気づきが生まれます。
それは何かを理解させるというより、同じものを前にしても、見方はいくつもあるのだと、そっと感じさせてくれるものです。
子どもが感じたことも、大人が思ったことも、どれも間違いではなく、ただ、そこに並んでいる。
そんな時間を、身近な誰かと分かち合いたいときに、そっと手に取ってほしい一冊です。


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