かつては「思い描くこと」の物語として読んでいた
この絵本に出会ったのは、15年以上前のことでした。
当時の私は、自分と向き合いながら、何がしたいのかを静かに考えている時期で、この物語を「思い描くことで道がひらけていく話」として受け取っていたように思います。
絵の美しさや、ページをめくるたびに気持ちが落ち着いていく感覚も強く残っていて、心を整えてくれる一冊、という印象でした。
読み終えたあと、すぐに何かを決めなくてもよい、その余白が心地よかったことも覚えています。
当時はまだ、その“余白”の意味までは、言葉にできていなかったのだと思います。
子どもが育った今、物語の重さが別のところに移った
三人の子どもたちが成人し、久しぶりに読み返したとき、かつてとはまったく違う場所で心が止まりました。
目に残ったのは、前へ進む力よりも、立ち止まる時間や、待つ姿でした。
親の想いと子の想いは、いつも同じ速さではそろわない。それでも、同じ時間の中で、確かに何かが育っていく。そんな関係性が、以前よりもはっきりと感じられました。
わかり合えなかった時間さえ、無駄ではなかったのかもしれない、と思えるようになった自分にも気づきました。
物語が変わったのではなく、読む側の立ち位置が変わったのだと感じています。
育てることは、思い通りにしないことでもある
庭で育つ植物や、物語の中に登場する動物たちを見ながら、育てるということは、手をかけることだけではなく、委ねることでもあるのだと感じました。
芽が出る時期も、形も、人の都合では決められない。
子育てもまた、自然の営みと切り離せないものなのだと、読み返す中であらためて思いました。
何かを与え続けることより、見守り続けることの方が、ずっと難しい場合もあるのだと。
絵本紹介
『おとうさんの庭』
文:ポール・フライシュマン
絵:バグラム・イバトゥリーン
訳:藤本 朝巳
出版社:岩波書店
動物が好きな農夫と、三人の息子たちは、歌いながら畑仕事をする暮らしを送っていました。
けれど日照りが続き、畑は荒れ、家畜も手放すことになります。
それまで当たり前だった日々は、少しずつ姿を変えていきます。
物語の途中で、父は子どもたちに問いかけます。
それは、これから先の生き方に関わる、静かな問いです。
息子たちはすぐに答えることはできませんが、それぞれの中で、思い描く時間を過ごします。
この絵本では、言葉にされない思いが、手を動かすことによって表されていきます。
庭という場所で、形が生まれ、並び、変わっていく。
親と子が、それぞれのやり方で向き合う時間が、重なって描かれます。
日本語訳を手がけた 藤本朝巳 さんの言葉は、音や動きがやさしく伝わってくる表現が印象的です。
なかでも、農夫の心を火にたとえた一文には、この物語のあたたかさが、そのまま宿っています。
※現在、購入はできません。図書館で借りて楽しんでくださいね。
おすすめの理由
「答えを出す」より前の時間が、そのまま描かれている
この絵本にあるのは、決断や結論ではありません。
問いを向けられて、すぐに言葉にできない時間。
考えながら、手を動かしながら、気持ちが定まっていくまでの揺れ。
思春期の迷いや、大人になっても続く「まだ途中」の感覚に、静かに重なります。
親が“導く側”として描かれていない
父は、正解を教えたり、進む道を示したりはしません。
ただ問いを投げ、同じ場所で手を動かし続けています。
その姿は、子どもを導く親というより、隣に立つ大人のあり方として描かれています。
親子関係を、上下ではなく並びとして見つめ直したい人に、深く響きます。
「夢」が成果や成功に置き換えられていない
この物語で扱われている夢は、達成の有無で測られるものではありません。
人に示す目標ではなく、その後の生き方につながっていくものとして、物語の中に置かれています。
だからこそ、年齢を重ねた読者にとっても、過去の夢や選択を、静かに振り返るきっかけになります。
夢について、もう一歩先まで考えたくなる余白がある
この絵本には、夢を持つことの大切さが描かれています。
同時に、その思いが形になったあと、どんな時間が続いていくのかを考えたくなる視線も残されています。
その先は、藤本朝巳さんのあとがきで、静かに開かれていきます。
まとめ
『おとうさんの庭』には、干ばつが長く続くなかで、思い通りにならない現実を抱えながらも、
人が前を向いて生きていく姿が描かれています。
失うものがあり、状況はすぐには変わらない。
それでも、考えることをやめず、手を動かし、暮らしを続けていく。
その積み重ねの中で、気持ちは少しずつ整い、「ここからまたやっていこう」という前向きさが戻ってきます。
この絵本は、厳しい現実をなかったことにせず、それでも生きていけるという確かさを、静かに手渡してくれる一冊です。
※現在、購入はできません。図書館で借りて楽しんでくださいね。
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