甘い記憶は、香りと一緒に戻ってくる
大阪にいた頃、バレンタインの時期になると、お菓子作りが得意な友人に教えてもらいながら仲間とチョコレートを作っていました。
ベルギーチョコを使って、オレンジピールにかけたもの、ナッツを混ぜたものなど、数種類。火にかけたチョコがゆっくり溶けていく香りだけで、「もう食べたい」という気持ちが先に立ってしまいます。甘い記憶は、味よりも先に、こうした香りや手触りと一緒に体に残っているのだと、あとから思いました。
「ちょっとだけ」が、何度も頭をよぎる
作っている最中なのに、味見は欠かせません。本当は一口でいいはずなのに、「もう少しだけ」「次は別の種類も」と、気持ちはどんどん前に出てきます。全部食べてしまうわけにはいかないけれど、我慢しきれない。その落ち着かない感じが、妙に楽しくもありました。『こねこのチョコレート』を読んだとき、まず思い出したのは、その“迷いながら手が伸びる感覚”でした。
絵本のチョコが、記憶の扉を開ける
絵本の中のチョコレートを見ていると、当時の台所の空気や、友人たちとの会話、作業台の上に並んだチョコの姿まで一緒に浮かんできます。チョコレートそのものよりも、「食べたい気持ち」と一緒にあったあの時間が、絵本を通してふっと戻ってきました。
絵本紹介
『こねこのチョコレート』
作:B・K・ウィルソン
絵:大社 玲子
訳:小林 いづみ
出版社:こぐま社
女の子は、弟の誕生日のために、こねこの形をしたチョコレートを買って帰ります。
プレゼントとして用意したものですが、家の中に置かれたその箱は、時間がたつにつれて、少しずつ存在感を増していきます。
物語は、女の子の行動や、家の中の様子を追いながら進みます。
白黒のページと色のあるページが交互に現れ、時間の移り変わりや、場面の違いが、
絵の雰囲気によって示されます。
終わりに近づくと、タイトルの「こねこ」という言葉が、もう一度、別のかたちで響いてきます。
チョコレートの話として始まった物語が、家の中で起きている出来事と重なりながら、静かに締めくくられます。
おすすめの理由
甘いものの記憶に、無理なく触れられるから
チョコレートは、特別な日やちょっとした楽しみと結びつきやすい題材です。
この絵本では、「甘いものを前にした気持ち」そのものが描かれています。
読む人それぞれの記憶に、静かにつながりやすいところが、
高齢者への贈り物として選びやすい理由です。
白黒とカラーのページが、目にやさしい変化をつくるから
白黒のページと色のあるページがあり、見え方が単調になりません。
線が際立つ場面と、色が印象に残る場面が交互に現れることで、ページをめくるごとに、自然な切り替わりが生まれます。
眺める時間にも心地よさがあり、読むというより「見ている」感覚で楽しめる絵本です。
チョコレートの話だけで終わらない構成だから
チョコレートをめぐる出来事とは別の場面で終わることで、一冊の中に広がりが生まれます。
読み終えたあとに残るのが、甘いお菓子の印象だけではないところも、大人にすすめやすいポイントです。
贈り方のヒント
手紙やカードに添えられる“ひとことメッセージ”
ふっと笑ってもらえたら
「思わずくすっとしてしまう場面や、見ていて和む絵があります。そんな時間が、少しでも増えたらうれしいです。」
気持ちがやわらぐ一冊として
「眺めているうちに、心が少しゆるむ場面がある絵本です。」
思い出が顔を出すかもしれません
「甘いものを食べた日のことや、昔の台所の風景が、ふと浮かぶかもしれません。そんな時間も一緒に届けたくて選びました。」
まとめ
『こねこのチョコレート』は、場面ごとに絵の雰囲気が変わり、その流れに合わせて、自然とページをめくっていける絵本です。
思わず笑ってしまうところがあり、見ているだけで和む絵があり、読み終えたあとには、
いくつかの場面が静かに残ります。
高齢者への贈り物としても、あらたまった気持ちにならずに渡せて、その人の時間の中で、ふとしたときに開いてもらえる一冊。
そんな距離感で選びたい絵本です。


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