『わたしのいちばん あのこの1ばん』

「1番」が心に影を落とす瞬間

保育園の年中・年長になると、「1番」をめぐる小さないざこざが日常のあちこちに生まれます。並ぶ順番、ゲーム、発表の順番。どれもささいなことに見えて、実は子どもの世界では大きな意味を持っているのだと感じます。その姿を見ていると、私は自分の心の奥に眠っていた気持ちがそっと揺れ動くのを感じることがあります。「1番」という言葉に、少しだけ苦しさを覚えていた頃の私が顔を出すのです。そんな時期の気持ちを、どこか他人事ではなく見つめるようになったのは、『わたしのいちばん あのこの1ばん』に出会ってからかもしれません。

誰かと比べてしまう“あの頃のわたし”

小学1年生の頃、班対抗の九九合戦があり、いちばん遅い班が掃除当番になるという仕組みがありました。私は人前に立つと声が小さくなり、九九もゆっくりしか言えず、いつも班を最後にしてしまいました。給食でもゆっくり食べる私は、また班を遅らせてしまっているような気がして、「みんなの中でいちばんできていないのはわたし」と思ってしまうことがありました。今思えば、それは単なるスピードの問題ではなく、“自分を誰かと比べる癖”が芽生え始めた時期だったのだと思います。この絵本の主人公が、友だちと自分を見比べて胸がざわつく場面を読むと、当時の自分がページの中にそっと立っているような感覚になります。

「わたしの1ばん」に気づくということ

転機は小学3年生のときでした。書いた作文を担任がほめてくれ、みんなの前で読むことになったのです。緊張はありましたが、その経験が心の奥に小さな光を灯してくれました。誰かより速くできるわけではなくても、自分の中には確かに“得意と言えるもの”があるのかもしれない、そんな気づきにつながった出来事でした。大人になった今、『わたしのいちばん あのこの1ばん』を読むと、あの時の感覚が静かに蘇ります。
この絵本は「誰かの1ばん」ではなく、「わたしの1ばん」を見つけていく物語。その視点は、思春期の子にも、大人にも、そっと寄り添ってくれるものだと感じます。自分を見つめ直したいとき、この絵本はやさしい鏡のような働きをしてくれるのです。

絵本紹介

『わたしのいちばん あのこの1ばん』

作:アリソン・ウォルチ
絵:パトリス・バートン
訳:薫くみこ
出版社:ポプラ社

『わたしのいちばん あのこの1ばん』は、誰かと自分を比べてしまう気持ちに静かに寄り添ってくれる絵本です。
表情の変化やさりげない動作の一つひとつに、子どもが抱える小さな痛みや戸惑いがそのまま映し出されていて、ページをめくるたび胸の奥のやわらかい部分がそっと揺れます。
決して大きな出来事が起こるわけではありませんが、自分の「好き」や「できること」を探す心の動きが、まるで自分自身を見つめる鏡のように感じられます。

この物語には、競争のなかで生まれる息苦しさや、“あの子のようになれたら”という憧れの裏側に隠れたため息のような気持ちが、ていねいに描かれています。
けれど同時に、誰かのまねではなく「わたしの1ばん」を見つけていく過程が、読む人にそっと自分の輪郭を思い出させてくれます。

学校生活のなかで心が揺れやすい小学生にも、大人にも、静かに寄り添ってくれる一冊です。

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おすすめの理由

比べてしまう気持ちに“名前”をつけてくれる

自分でもうまく言えない、胸の奥のざわざわをそっと言語化してくれる絵本です。
「そう感じていいんだ」と気づくことで、心が少しだけ軽くなります。

自分のペースで進んでいいと思わせてくれる

物語はゆっくり進みますが、そのリズムこそが魅力です。
読む側にも“急がなくていい”という安心が生まれます。

思春期や大人の“自己肯定感の揺れ”に静かに寄り添う

誰かと比べてしまう痛みは大人になっても残ります。
この絵本は、その小さな傷にそっと手を添えるように寄り添ってくれます。

「わたしの1ばん」を見つめる視点が心に残る

競争ではなく、自分の中にある種に目を向けること。
その視点の転換が、後味のやさしい余韻として残ります。

まとめ

『わたしのいちばん あのこの1ばん』は、比べる気持ちに揺れる心をそっと抱きしめてくれる絵本です。
大きな出来事のない静かな物語なのに、読み終えると胸の奥に灯りがともります。
自分のペースで進んでよかったのだと、どこか安心させてくれます。
誰かの1ばんではなく、わたしの1ばんを見つける視点は、思春期の子にも、大人にも、そっと寄り添ってくれるはずです。
ふと立ち止まりたくなった日に、この絵本を開いてみてはいかがでしょうか。
心の奥に眠っていたやわらかな部分が、静かに息を吹き返す一冊です。

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