『ぼくのすみっこ』

本屋で聞こえたひと言から、思わぬ扉がひらいた

本屋でこの絵本を手にとったのは、5歳ほどの男の子の「カラスだ!」という声がきっかけでした。
その横でお父さんが、「カラスだね。でもこんな下に描いてあって、上が真っ白でもったいないなあ」とつぶやいたのです。

その何気ない一言が、なぜか心にひっかかりました。
「もったいない」のか「意味がある」のか。
その境界が気になって、私は思わず絵本を開きました。

そしてページをめくるたび、「ああ、これは私の幼い頃の光景に似ている」と、静かに胸の奥が反応しました。

ひとりでいることが“逃げ”ではなく“選んだ場所”だったあの頃

幼稚園の頃、私は園庭の土山にあるトンネルが大好きでした。
小さな暗いトンネルの中から、明るい園庭を眺めていると落ち着く。
誰かが近づいてくると、私はそのまま“しぜんの国”へ移動しました。

“しぜんの国”は園庭の端にある小さな茂みの向こう側に広がっていた、子どもには広大な冒険の世界でした。
木々のざわめき、土のにおい、陽の光が細く差し込む感じ。
その場所でひとりになると、心がうんと自由になったのを覚えています。

一人が寂しさではなく“わたしの場所”そのものだったのです。

この絵本のカラスにも、そんな気配があります。
世界の真ん中から少し距離を置いて、自分のリズムで世界を見るまなざし。
その“すみっこ”は、弱さではなく、その子の生き方なんだと感じました。

大人になっても消えない“自分だけのすみっこ”を思い出す絵本

思春期になると、「みんなと同じようにしなければ」「もっと前に出たほうがいい」そんな声が周りからも、中からも聞こえてきます。

けれど大人になった今思うのは、誰にでも“すみっこ”が必要な時期があるということ。

ひとりになれるすみっこ、自分を整えるすみっこ、気持ちを抱えたまま座っていられるすみっこ。

この絵本は、“すみっこにいる自分も、それでいい”と感じさせてくれる物語です。

私がこの絵本に惹かれたのも、幼い頃の自分の姿を思い出したからだけではありません。
大人になった今でも、心のどこかに“すみっこ”があり、そこに戻ることでバランスをとっている自分に気づくからです。

カラスの表情や少ない色彩の中に、「今はここにいたい」という静かな意思が流れていて、思春期の揺れや、大人の疲れや、心の居場所を探す感覚と重なります。

絵本紹介

『ぼくのすみっこ』
作:ジョオ
訳:かみや にじ
出版社:ほるぷ出版

この絵本の主人公は、一羽のカラス。
黒い羽の小さな姿がページの片隅にそっと描かれ、その上には大きな余白が静かにひらけています。その“空白”には、言葉以上の息づかいが宿っていて、ページを開いた瞬間に独特のリズムが生まれます。

カラスは、にぎやかな中心にはいません。
少し離れた場所から世界を眺めています。その距離感には孤独だけでなく、自分なりのペースで世界と関わろうとする穏やかな強さが感じられ、読み手の心のどこかにそっと触れてきます。

部屋の片隅に置かれたもの、道端の景色、ふとした動き。
ごく小さな出来事の積み重ねなのに、視線の角度が変わるような不思議な感覚があります。「こんなふうに世界を見ていたのか」と、読むたびに発見がある絵本です。

多くの色を使っていないのに、場面が変わるごとに空気の匂いや時間の流れがわずかに揺らぎ、ページを追うほどにその静けさが深まっていきます。大きな声や派手な展開には頼らない、心にゆっくりしみ込んでいく一冊です。

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思春期~大人におすすめしたい理由

自分のペースで世界を見つめたい時に寄り添ってくれる

思春期の子どもたちも、大人も、「ちょっと距離を置きたい」「間をおきたい」そんなタイミングがあります。
この絵本のカラスは、逃げているわけでも、拗ねているわけでもなく、“いまはここにいたい”というささやかな選択をしているように見えます。
その姿に救われる人は、きっと多いはずです。

にぎやかな世界に馴染めないときの「居場所の再確認」

大勢の中にいると疲れてしまう。
自分だけリズムが違う気がする。
そんな経験がある人ほど、この絵本の余白がやさしく響きます。
すみっこは、“自分で選んだ落ち着く場所”だと思わせてくれます。

感情を取り扱いすぎない表現が、大人の心にちょうどいい

この絵本は、説明したり、解釈を押し付けたりしません。
読者それぞれが、自分の経験や感情を重ねて読める余白があります。
思春期の揺れにも、大人の複雑さにも、無理に近づきません。
その“距離感”がとても心地よい作品です。

ものの見方が静かに変わる「視点の転換」の絵本

カラスの位置、視線、置かれた物の配置。
どれも大きなストーリーを語らないのに、読んでいるうちに「自分の世界の見え方」が少し揺さぶられます。
思春期の子の成長にも、大人のリフレッシュにもつながる、静かな視点の転換が起きる絵本です。

無理に頑張らなくてもいい、と自然に思える

人生のどこかで一度は感じる「がんばれない日」。
そんなとき、この絵本の“すみっこ”は頑張れない自分への言い訳ではなく、“ここで息をついていれば大丈夫”という感覚をくれます。
読むだけで、肩の荷が少し軽くなるような本です。

まとめ

『ぼくのすみっこ』は、“にぎやかなところにいない自分”を否定しない絵本です。

思春期の揺れ、大人になってからの静かな疲れ、自分のペースを守りたい時間、どの時期にもそっと寄り添ってくれます。

すみっこにいるということは、隠れることではなく、世界との距離を自分で決めるという、静かな選択です。
その選択がどれほど大切で、どれほど自然なものかを、この絵本はやわらかく教えてくれます。

読み終えると、“わたしのすみっこ”を大切にしていいんだ、そんな気持ちがすっと生まれてくる一冊です。

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