静かに物語へ招かれる“見開きの魔法”
先日、本屋を歩いていたとき、「怪物園」がふっと目に入りました。
表紙をめくって見開きを開くと、派手さはないのに、静かに物語へ誘われるような空気が漂っていて、そのままページの前で動けなくなりました。
色づかいや光の置き方、子どもたちの小さな表情、そのすべてが「これから何かが始まるよ」とささやくようで、わたしの心がすっと物語の扉の中へ入っていくのを感じました。
気がつくと、もう本を抱えてレジへ向かっていました。
段ボールが“世界をつくる道具”だったあの頃
段ボールの乗り物が登場する場面を見た瞬間、胸が熱くなりました。
わたし自身、子どもの頃は段ボールで世界をつくるタイプの子でした。
段ボールは、入れ物ではなく“世界そのもの”。
船にもなり、宇宙船にもなり、秘密基地にもなり……想像したものは何でも形になりました。
忘れられないのは、段ボールで作った船で噴水に入ったあの日。
本気で“海に出航”するつもりだったのに、あっという間に段ボールはふにゃふにゃに沈みかけ、友達と必死で逃げたこと。今思えば無謀ですが、あの時の胸のドキドキは今も鮮明です。
ほかにも、段ボールの家を作って、お菓子と懐中電灯を持って“プチ家出”をしたこともあります。夕暮れの心細さに負けて泣きながら帰ったものの、その小さな冒険がとても誇らしくて、自分だけの秘密を手に入れた気がしました。
絵本の子どもたちが段ボールの乗り物に乗り込む姿を見ると、あの頃のわたしの中の“小さな冒険家”が、そっと目を覚ますような気がします。
子どもと読み合うと、「そうそう、こういうの作りたいんだよね」「子どもの発想って本当に自由だなぁ」と、大人の想像力までゆっくりほぐれていきます。
怪物と家の対比が呼び起こす“想像のスイッチ”
「怪物園」の絵は、怪物の世界と家の中の対比が本当に見事です。
色づかいのやさしさと、怪物たちの迫力が絶妙に溶け合っていて、物語に深い奥行きが生まれています。
その絵の世界を眺めていると、子どもの中で自然に“想像のスイッチ”が入るのがわかります。
少しこわいけれど、どこか惹かれる。
安心できる場所と未知の世界の行き来が、読む子どもの心そのものです。
そして大人にとっても、「昔わたしもこういう世界を自由に旅していたな」と思い出させてくれる、とても誠実なファンタジーです。
子どもと一緒にページをめくると、怪物の表情や家の光を指さしたり、小さな声で“ここ、好き”と言ってくれたり。絵本を通して、子どもの“心の動き”がすぐ隣で感じられる時間が生まれます。
絵本紹介
『怪物園』
作・絵:junaida
出版社:福音館書店
この絵本は、いつもの日常の中にふっと“物語の入り口”があらわれるような、不思議な高揚感と静けさをあわせもった一冊です。気づけばページの先には思いがけない世界が広がり、読者は主人公たちと同じようにそっと境界をまたいでいきます。
junaida さんの絵は、質感や色の重なりまで丁寧に描かれ、目に映るものすべてが物語を語っています。どこかこわくて、どこか愛おしい存在たちの表情や佇まい、背景に漂う空気は、言葉にできない気配となって心に残り、絵の奥にある世界へ自然と誘ってくれます。
物語は大きな事件が起こるわけではありませんが、現実と空想がゆるやかにつながる感覚が心地よく、子どもが「遊びの中で世界を広げていく力」をそのまま映し出しているようです。読む人自身の“小さな冒険の記憶”がふっとよみがえり、静かに胸があたたかくなります。
ファンタジーの深さと、日常と地続きの遊び心。その両方が重なりあって生まれる余韻は、親子で何度もページをひらきたくなる魅力に満ちています。
おすすめの理由
想像の世界へ、一気にひらかれる入り口
段ボールの乗り物や怪物たちの世界が、物語のはじまりから子どもの想像力に火をつけます。ページをめくるごとに世界が広がり、読み終わるころには、部屋の中そのものが物語の続きのように感じられます。読むことと遊ぶことが、自然につながっていく絵本です。
「少しこわい」が、ワクワクに変わる体験
怪物との距離感が絶妙で、怖さが不安になりすぎず、楽しさへと変わっていきます。「怖いけど見たい」という気持ちを、安心できる形で味わえることで、物語の世界に踏み出す勇気が育まれます。
日常から非日常へつながる、冒険のはじまり
家の中という身近な場所から、怪物の世界へと移り変わる構成が、子どもにとって“冒険の入り口”になります。現実と空想が自然につながり、フィクションの世界を楽しむ体験が、無理なく広がっていきます。
大人の記憶も呼び起こす、懐かしいワクワク
段ボール遊びや秘密基地づくりなど、かつて大人が感じていた冒険心がふっとよみがえります。子どもだけでなく、大人も物語に引き込まれ、同じワクワクを共有できる時間が生まれます。
読み合いが、そのまま遊びへつながる
ページの広がりをゆっくり味わい、気になる場面をじっくり眺めることで、物語の世界に深く入り込めます。読み終えたあと、段ボールや紙袋で遊びたくなる気持ちが自然に芽生え、家庭でも園でも遊びへと広げやすい絵本です。
まとめ
『怪物園』は、子どもの想像力と冒険心をやさしく引き出してくれる絵本です。
段ボール遊びや秘密基地のワクワクを思い出させ、親子で“昔の自分”を重ねながら楽しめます。
少しドキッとする怪物たちも、物語の中では子どもを成長へと導く存在。
読み終えるころには、日常の部屋の中が少し違って見えてくるはずです。
物語の世界へ飛び込む楽しさと、戻ってきたときの安心を行き来できる、家庭でも園でも長く寄り添ってくれる一冊です。


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