『けんかのきもち』

息子の悩みに寄り添いたくて手に取った一冊

息子が小学3年生のとき、転校をきっかけに友だち関係で悩むようになりました。新しい環境に飛び込むことは大人でも難しいものですが、当時の息子にとっては想像以上に負担が大きかったのだと思います。しかし、悩んでいたのは息子だけではなく、むしろ「どう支えたらいいのか」と戸惑う私自身のほうでした。母親として、ただ見守るだけでは足りないような、でも何もしてあげられないような、そんな揺れを抱えていました。

本屋で“呼ばれた”ように感じた瞬間

ある日、ふと立ち寄った本屋で『けんかのきもち』というタイトルが目に飛び込んできました。胸がぎゅっと強くつかまれるような感覚があり、自然と手が伸びました。絵本はいつも、そのときの心に必要なものをそっと差し出してくれるように感じています。「今読むのはこれだよ」と呼ばれたように思えたのです。

あそび島の世界に息子を重ねて

物語に登場する「あそび島」は、子どもたちだけの時間がゆっくりと流れる自由な場所です。ページをめくると、大小さまざまな子どもたちが遊び、ぶつかり、また仲直りしていく姿が描かれています。その世界に触れながら、私は息子の姿を重ねました。わが家でもきょうだい喧嘩や親子の衝突が続いていた時期で、登場人物の感情の揺れが胸に響き、思わず立ち止まってしまう場面も多くありました。
「怒りの奥には、ほんとうは仲良くしたい気持ちがある」
絵本はそんな当たり前のことを、優しく思い出させてくれました。


絵本紹介

『けんかのきもち』

作:柴田愛子
絵:伊藤秀男
出版社:ポプラ社

『けんかのきもち』は、子どもたちが集まる「あそび島」で起こる小さな衝突を通して、“気持ちの奥にあるやわらかさ”を描き出した絵本です。島には年齢の違う子どもたちが自由に集い、思い思いの遊びを楽しむ姿が広がっています。ページをめくると、明るさの中にどこか懐かしさを感じる空気が流れ、読者は自然とその世界へと引き込まれます。

物語は、白いものをこねて遊ぶシーンから始まります。それが何なのかは読み進めて初めてわかる仕掛けになっており、子どもたちの想像力と遊びの広がりがそのまま絵の中で息づいています。やがて遊びの最中にすれ違いや衝突が生まれ、表情がゆらぐ場面が描かれます。怒る、叫ぶ、戸惑う、その瞬間に生まれる“とげとげした気持ち”がとてもリアルで、大人が読んでも胸がきゅっとするほどです。

しかし、絵はその先にある「やわらかい本音」も確かに描き出します。仲直りのきっかけは大きな出来事ではなく、ちょっとした表情の変化や、そっと寄り添う仕草。言葉で説明されない分、ページの余白から多くの感情が伝わり、読者自身が気持ちを重ねながら読み進められます。読み終えたときに残るのは、喧嘩の痛みではなく、関係がまたひとつ育ったあたたかい余韻です。

おすすめの理由

子どもの「言えない気持ち」をすくい上げてくれる

怒りや戸惑いの裏にある本音を、言葉に頼りすぎず丁寧に描いています。
子どもが日常で抱える小さな揺れを代弁してくれるような一冊です。

親子・きょうだい・友人など幅広い関係に寄り添う

喧嘩の場面は誰の生活にもあるもの。
家庭でも学校でも、状況を問わず心にすっと入ってきます。

大人も深く共感できるリアルな感情描写

子どもだけでなく、大人自身の過去の記憶にも響く感情が描かれています。
読みながら「自分にもこんな気持ちがあった」と思い出すことができます。

喧嘩の奥にある“関係が育つ瞬間”を示してくれる

衝突は決して悪いことではなく、むしろ関係が深まる入口でもある。
視点がやさしく変わる体験を与えてくれる絵本です。

読み合いのヒント

感情の言葉を急いで引き出さない

子どもが絵を見て感じるままを大切にし、無理に説明を求めないことで心が開きやすくなります。

喧嘩の場面を「良い・悪い」で評価しない

行動の是非よりも、そこにあった気持ちを一緒に味わうように読むと深まります。

読み終えたら、少し沈黙の時間をつくる

余韻の中で、子どもが自然に話し始めることがあります。

まとめ

『けんかのきもち』は、子どもの心の揺れをそのまま受け止め、喧嘩の奥に隠れた「ほんとうの気持ち」にそっと光を当ててくれる絵本です。親子で読むことで、普段は言葉にできない思いや、うまく伝えられなかった感情が自然と共有されていきます。悩みや衝突は避けたいものではなく、むしろ成長していく過程の大切な一歩なのだと気づかせてくれます。読み終えたあと、子どもだけでなく大人の心にも、あたたかいやわらかさが戻ってくるような余韻が残ります。家族でそっと寄り添いたいときに、ぜひ手に取りたい一冊です。

子どもと読み合う

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