『おじいちゃんの大切な一日』

震災後、本屋で出会った一冊が胸にとどまった日

この絵本に出会ったのは、東日本大震災の後のことでした。
書店でふと目に入り、手に取ってページをめくると、そのまま読み止まらなくなってしまい、本屋で最後まで読み切ってしまいました。重松清さんの作品がもともと好きだったこともありますが、それ以上に、当時の自分の心にそっと触れてくるような言葉が、この絵本にはありました。

出版は2011年。しかし絵本がつくられたのは2008年とのこと。
時代を先回りしたかのように、「便利さ」と「人の手のぬくもり」を問いかける言葉がちりばめられています。今改めて読み返すと、震災後の混乱と不安の中で手に取ったあのときよりも、さらに深く心にしみ入ってきます。

“人の手でつくる”という重さを思い出させた言葉

特に心に残っているのが、作中のこの言葉です。

どんなにコンピュータで便利になっても、長年の経験がモノをいう仕事はたくさんあるんだよ。
どんなにコンピュータが発達して便利になっても、最後の最後は人間なんだ。人間が作るんだよ、機械は。

この言葉を読んだとき、私は幼稚園で働き始めた頃のことを思い出しました。

当時、卒園アルバムはまだガリ版で印刷していました。
子どもたちの描いた絵を、細い針のようなペンで丁寧になぞっていく作業は本当に大変で、指先が痛くなる日もありました。
それでも、その手間ひまがそのまま“思い出の重さ”となり、手づくりのアルバムを開くたび、あの頃の空気やにおいがよみがえってくるのです。

おたよりもパソコンではなく、手描きのイラストや切り貼りでつくっていました。今思えば、効率は悪かったはずなのに、どのページにも“誰かの手の時間”が確かに残っていました。

便利になるほど、なぜ忙しくなるのだろう?

いまは便利なツールが増え、おたよりもアルバムも以前よりは早く作れるようになりました。
作業効率は確かに上がったはずなのに、事務作業が減ったわけではない。その不思議さに気づくことがあります。

「便利になると、人の欲求も増える」
「できることが増えた分、求められることも増える」

この絵本の言葉は、ただの“時代への問いかけ”ではなく、自分は今どんなふうに“人の手で生きているか”を静かに振り返らせてくれる言葉でした。

絵本紹介

『おじいちゃんの大切な一日』

作:重松清
絵:はまのゆか
出版社:幻冬舎

この絵本は、何気ない「しごとの一日」を通して、長い時間をかけて紡がれてきた〈人の手〉と〈家族のぬくもり〉をそっと照らし出す物語です。

おじいちゃんが向き合う手仕事には、便利さでは置き換えられない静かな強さがあり、その姿を見つめる家族のまなざしが、ページの奥にやわらかな余韻を広げていきます。

言葉よりも、手の動きや道具の音、寄り添う気配のほうが雄弁に語る世界。
その中で描かれる三世代の距離感は、読む人自身の記憶や人生と静かに重なっていきます。

はまのゆかさんの絵は、手仕事の美しさと、人が誰かのために過ごしてきた時間の積み重なりを、光の粒のように拾い上げ、胸の奥にあたたかさを残してくれます。

“受け継がれていくものは、いつも目に見えるとは限らない。”

そんな気づきがそっと灯る、大人の心に深く響く一冊です。

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思春期〜大人にすすめたい理由

ものづくりの“誠実さ”を思い出させてくれる

便利さに押し流されそうなときにも、「丁寧に積み重ねる時間」の価値を思い出させてくれます。

自分の生き方を静かに見つめ直せる

派手ではなくとも、日々の積み重ねが確かに誰かを支えていると気づけます。

思春期の“未来の仕事観”にも響く一冊

努力や経験は、すぐ結果が出なくても無駄ではない――そんなメッセージを自然に受け取れます。

大人が抱える“止まれない心”に寄り添う

忙しさに追われて見失いがちな「人の手の価値」を、そっと取り戻させてくれます。

読むタイミングで表情を変える絵本

若い頃より、年齢を重ねてから読むほうが深く沁みる、そんな稀有な一冊です。

まとめ

おじいちゃんの手の動きや、作業場に満ちる静けさは、生きてきた時間の積み重ねそのものです。
そこに息子や孫娘が寄り添い、何気ない言葉を交わすことで、一日の景色に小さな光が差し込みます。
受け継がれていくものと、世代によって変わっていくもの。そのどちらもが尊くて、どちらも家族の歴史を形づくっていきます。
淡々とした日々の中にこそ、本当の「大切」が宿るのだと、この絵本は静かに教えてくれます。
読み終えるころ、自分の家族の姿がふと胸によみがえり、誰かの手のぬくもりや、昔見た風景がそっと心を揺らすかもしれません。
特別なことがなくても、今日という一日はもう二度と戻らない。その当たり前の事実が、優しさとともに沁みてくる一冊です。

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