くり返しのリズムが心地よい一冊
この絵本は、「がたん ごとん がたん ごとん」という同じリズムのくり返しが楽しい一冊です。初めて読んだとき、ただ声に出すだけで不思議と心が整っていくような感覚がありました。“読む”というより“リズムを生む”絵本だと気づいた瞬間でした。保育園で読み聞かせをしていたときも、「がたん ごとん」がこんなにも多くの表現になるのだと思わされました。声の高さ、間の取り方、息の置き方をほんの少し変えるだけで、電車の速さや揺れ、走っている風景までもが変わっていくのです。
子どもたちが“乗り込んでいく”ような時間
読み始めると、子どもたちは自然と耳をすませ、音に引き寄せられるように体を揺らし始めます。ゆっくり読めばのんびりした電車に、テンポよく読めば元気いっぱいの電車に。読み方によって、子どもたちの体の動きまでもが変わっていくのが面白いところでした。
中には、絵本が進むにつれて前のめりになり、まるで本当に電車に乗っているかのように表情が変わっていく子もいて、その姿を見るたびに「絵本ってすごいな」としみじみ思いました。繰り返しのリズムが心地よく、読むたびにその場の空気がふんわりとやわらかく包まれていくような時間でした。
読むたびに変わる“自分だけのリズム”
私自身も、この響きを楽しみながら子どもたちに読んでいました。我が子に読むときは、自分なりの「がたん ごとん がたん ごとん」で。その日の気分や空気感によって自然と音が変わっていくのが、自分でも面白く感じられました。
同じ人が読んでも、読む場所、読む時間、目の前にいる子どもの表情によってリズムが変わる。たった一行のくり返しなのに、毎回ちがう“旅”になるのがこの絵本の奥深さであり、読み手にとっての楽しさなのだと思います。シンプルな言葉なのに、読むたびに新しい景色が見える。そんな不思議であたたかい絵本です。
絵本紹介
『がたん ごとん がたん ごとん』
作・絵:安西水丸
出版社:福音館書店
『がたん ごとん がたん ごとん』は、黒い汽車が「がたん ごとん」と音を響かせながら走る様子を描いた、シンプルでありながら奥深い魅力をもつ絵本です。言葉はほとんど同じくり返しなのに、ページをめくるごとに想像がふくらみ、読み手の声やテンポによってまったく違う表情を見せてくれます。
登場するのは哺乳瓶、りんご、猫など、子どもにとって身近なものばかり。視認性の高いイラストはわかりやすく、まだ言葉の少ない子でも自然に絵本の世界へ入っていくことができます。「これなに?」「ねこだ!」と指さしや声がぽんぽん生まれるのも、この絵本ならではの光景です。
また、読み聞かせではリズムが主役になります。ゆっくり読めばのどかな旅、テンポよく読めば元気な汽車の走りに。読み手の個性がそのまま“絵本の音楽”になり、日によってまったく違う旅が始まるのがこの作品の面白さです。
親子で、または大勢の子どもと読んでも楽しめる、長く読み継がれてきた理由がよくわかる一冊です。
おすすめの理由
音のくり返しが子どもの心にすっと届く
「がたん ごとん」というシンプルなリズムが、まだ言葉の少ない子どもにも安心して届きます。耳で楽しめる絵本です。
読み手によって“電車の姿”が変わる面白さ
声の高さやテンポで、まるで別の電車が走っているように感じられます。読み聞かせが自然に楽しくなる一冊です。
子どもが物語に“乗り込んでいく”感覚が味わえる
体を揺らしたり、前のめりになったり、子どもたちの反応がとても豊か。絵本と現実がやさしくつながります。
言葉が少ないからこそ親子のやり取りが生まれる
「これはなあに?」「のせてあげる?」と自然に会話が広がり、親子の時間が心地よく流れていきます。
読むたび違う景色が見える奥深さ
同じ一行のくり返しなのに、その日その時によって感じ方が変わります。長く読み続けられる理由がここにあります。
読み合いのヒント
子どもの表情をそっと味わいながら読む
言葉の少ない絵本だからこそ、子どもの“見ている顔”そのものが物語につながります。こちらは静かに寄り添うだけで大丈夫です。
ページをめくるタイミングを急がない
シンプルな絵本ほど、次のページに移る“間”が心地よさになります。子どもが見終えるまで、ゆっくり待ってあげてください。
子どもから出てきた声を大切にする
「ねこ!」「ごとん!」など自発的に出た言葉は楽しんでいる証拠。読み手が合わせすぎず、そのまま受け止めてあげるのがおすすめです。
まとめ
『がたん ごとん がたん ごとん』は、シンプルな言葉のくり返しから生まれる心地よさが魅力の絵本です。読む人によってリズムが変わり、同じ一冊なのに毎回ちがう旅が始まります。
子どもたちは音の世界に身をゆだねながら、まるで電車に乗っているかのように想像を広げていきます。
親子で読むと、声のやり取りが自然に生まれ、日々の慌ただしさの中で忘れがちな“ゆっくりと流れる時間”を思い出させてくれる絵本です。
何度でも読みたくなる、あたたかい余韻を残してくれる一冊です。


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