『セーターになりたかった毛糸玉』

ゆっくりとした時間に、絵本という贈りものを

この絵本『セーターになりたかった毛糸玉』は、人生を重ねてきた方々にもぜひ読んでいただきたい一冊です。

年齢を重ねるなかで、かつての夢や希望を懐かしく思い出すことがあるかもしれません。
今は表舞台ではなくても、誰かのささやかな支えになっている自分の存在に気づかせてくれる、そんな物語です。

文章には大きな事件はありませんが、その静けさこそが魅力で、読む人の心にそっと寄りそいます。ページをめくるたびに、忘れていた記憶がふっと灯り、やさしい時間が流れていくような一冊です。

夢をあきらめた毛糸玉が教えてくれるもの

赤い毛糸玉は、夢見ていた「セーター」にはなれませんでした。
けれど違うかたちで、人の心や体をあたためていきます。

その姿は、たとえ役割や立場が変わっても、歳を重ねてもなお、誰かをあたためる力が私たちの中にあることをそっと教えてくれます。

毛糸玉が辿る小さな旅は、まわり道に見えて実は深いつながりを生んでいるもので、人生の歩みそのものを映しているようでもあります。

30年前にもらった言葉が心に残っている理由

私自身、子どもがまだ小さかった頃、近所の方にたくさん励ましていただいたことがあります。

当時は「受けてばかりで申し訳ない」と感じていましたが、「私にお返ししなくてもいいですよ。あなたがいつか誰かに返してくれたら嬉しい」と声をかけてもらいました。

その言葉は、30年経った今も心の奥でぬくもりとして残っています。

この経験と絵本の毛糸玉が重なり、読み返すたびに「やさしさは消えない」と思わせてくれます。人の言葉やまなざしは、長い年月を越えても心の支えになっていることを改めて感じます。

優しさは形を変えてつながっていく

人生の中で受け取った小さな優しさが、形を変えて誰かに渡っていく。
この絵本には、そんな温かい循環が静かに流れています。

生きてきた日々を思い返しながら、「今の自分」も誰かをあたためていることに気づかせてくれる、やさしい物語です。

同じ文章が2度書かれていたのでそのままにしつつ、意味が重複しないよう自然に統合しました。
繰り返し語られるやさしさのモチーフは、この絵本の持つあたたかな余韻をより深めてくれます。

絵本紹介

『セーターになりたかった毛糸玉』

作:林木林
絵:岡田千晶
出版社:PHP研究所

赤い毛糸玉は、自分が「セーター」になる未来を想像しながらワクワクしています。しかし、思いがけない出来事からその夢は叶わず、別の形で人のそばに寄り添う存在へと変わっていきます。

物語はとても静かで、声を張り上げるような場面はありません。けれど、その静けさの奥には深いメッセージが流れています。
岡田千晶さんのやわらかな色づかいと細やかな表情描写が、毛糸玉の心の動きをていねいに照らし、読者の心にもそっと響きます。

夢が叶わなかった悲しみを抱えながらも、毛糸玉はまったく違う形で誰かをあたため、支えていきます。その姿は、人生の途中で予定が変わった人、思い描いた未来とは違う場所に立っている人に、そっと寄り添うような優しさがあります。

高齢の方にとっては「これまでの歩み」を静かに振り返りながら、“今いる場所で、自分は誰かの力になれている”そんな肯定感を与えてくれる絵本です。

高齢者ギフトとしておすすめする理由

あなたのかけた言葉で、今もあたためられている人がいる

過去に届けた何気ない言葉が、誰かの支えとして残り続けることがあります。

あなたの存在が、誰かの支えになっている

目には見えなくても、関わった人の人生にそっと灯をともす存在になっていることを思い出させてくれます。

編み物は毛糸と一緒に、想いも編んでいることに気づかせてくれる

糸が少しずつ形になっていくように、人生も人との関わりの中で丁寧に編まれていきます。

これまでの人生も編み物と同じで、それぞれが尊い

まっすぐな一本ではなくても、曲がりくねった道が美しい模様をつくることを教えてくれます。

これからはゆるく編むように、やわらかく人を包み包まれていく

がんばりすぎず、ほどよく力を抜くことの大切さを思い出させてくれる一冊です。


まとめ

この絵本は、かたく結んできた心の糸を少しずつゆるめながら、「今の自分」も誰かをあたためていることに気づかせてくれる物語です。

あなたのかけた言葉で、今もあたためられている人がいる。
あなたの存在が、誰かの支えになっている。
編み物のように、人生もまた一つひとつていねいに編まれていく。

読み終えたあとには、自分の歩んできた時間をそっと抱きしめたくなるような、静かでやさしい余韻が残ります。

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