『こんにちは どうぶつたち』

まっすぐな瞳に出会える一冊

この絵本には、本物の動物たちのアップの写真が大きく写し出されていて、ページをめくるたびに生きものの息づかいがそのまま伝わってくるようです。初めて読んだとき、私自身も思わず手が止まりました。「こんなに近くで見つめられるなんて…」と驚きとあたたかさが同時にこみ上げてきて、絵本というより“出会い”に近い感覚でした。
保育園で子どもたちに読んだときも反応はさまざまで、「わぁーっ」と声があがったり、じっと動かず写真を見つめたり、動物の名前をつぶやくように言ったり。絵本のストーリーではなく、写真そのものに心をつかまれる子が多い絵本です。

「こわい」のか「うれしい」のか、その境界にいる子どもたち

面白いのは、「こわい」と言う子がほとんどいないこと。大きな目で見つめられる写真なのに、子どもたちは自然に受け入れていくようでした。
……と言いながら、我が子は少し怖がっていました(笑)。けれどその表情さえも、どこか興味と迷いが混ざっているようで、“本物の命”を前にしたときの素直な感情なんだろうなと感じました。子どもたちの反応を見ていると、写真だからこそ伝わる温度や距離感があり、それが子どもの心をまっすぐ揺さぶるのだと思います。

写真のインパクトと「やさしさ」の両立が生むもの

一見インパクトのある写真ですが、動物たちの目はどれもやさしく、強さよりもあたたかさを感じます。ページを開くたびに「こんにちは」と語りかけてくれるようで、視線が合うたびにふっと気持ちがほぐれていく不思議な絵本です。読み終えたあと、子どもたちは必ずといっていいほど「もう一回」と言いますし、私自身も何度も戻りたくなる瞬間があります。
その理由はきっと、この絵本を通して“いのちをいとおしく思う心”が静かに育っているからなのだと思います。大人の私が読んでも、あのまっすぐな瞳に触れるたびに「今日もがんばろう」と思える。そんな力をもつ絵本です。

絵本紹介

『こんにちは どうぶつたち』

写真:岩合光昭
出版社:福音館書店

『こんにちは どうぶつたち』は、動物写真家・岩合光昭さんがとらえた動物たちの“まっすぐな表情”が楽しめる写真絵本です。ページいっぱいに大きく写った動物たちの瞳は、ただかわいいだけではなく、どこかこちらの心をまっすぐ見つめ返してくるような存在感を持っています。写真集ほど構えず、それでいて絵本よりも生々しい息づかいが伝わる、絶妙な距離感の一冊です。

登場する動物たちは、特別なポーズをしているわけではなく、自然の中でそのままの姿を見せてくれます。だからこそ、読んでいる子どもたちは「ほんとうにここにいるみたい」と感じるのかもしれません。保育園で読むと、喜び・驚き・静けさ・笑い…同じページでも子どもによって反応がまったく違うのが魅力のひとつです。

岩合さんの写真は、動物の“目”を特に大切にしているといわれますが、この絵本でもその特徴が際立っています。大きく引き伸ばされた瞳は、強さよりも柔らかさを感じさせ、読み手を包み込むような温度があります。写真絵本でありながら、読むたびに心が整っていくような静かな余韻がのこります。

幼児も小学生も、大人でさえも思わず立ち止まりたくなる一冊です。

おすすめの理由

まっすぐな瞳に心が引き寄せられる

動物たちの視線が、そのまま読み手に届くような強さと優しさを持っています。

子どもの反応が素直にあらわれる絵本

「わぁ!」と声が出たり、じっと見つめたり、その子らしい姿が引き出されます。

“こわい”と“うれしい”の境界をゆらぐ体験ができる

はじめての出会いに戸惑う気持ちも、好奇心に変わる瞬間も自然に味わえます。

写真なのにどこか物語のある余韻がのこる

岩合さんの写真は、動物たちの性格や心が伝わるような温度があります。

繰り返し読むほど“いのちへのまなざし”が育つ

ただの写真ではなく、生きものへの優しい眼差しを育てる時間になります。

読み合いのヒント

じっくり見る時間をあえてつくる

写真絵本は「見る時間」が読書。ページを急がず、子どもの視線を待ちます。

子どもの言葉をさえぎらない

「わぁ!」「こわい…」どんな反応もそのまま受け止めると、安心して向き合えます。

目が合った瞬間の表情を観察する

写真だからこそ見える“心の動き”があります。

まとめ

『こんにちは どうぶつたち』は、ただ動物の写真を見る絵本ではなく、“まなざしを通して心がふれる”一冊です。ページをめくるたびに、動物たちのやさしい瞳がこちらを見つめ、子どもも大人も自然と静かな気持ちになっていきます。写真絵本でありながら、読んだあとに余韻が残り、また会いたくなる動物たちばかりです。いのちを大切に思う気持ちが、声に出さなくてもふっと育つ。そんな時間を親子に届けてくれる絵本です。

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