『3びきのかわいいオオカミ』

娘のひとことで、立ち止まった時間

愚痴をこぼしたとき、娘から「今日あったいい事を思い出した方が幸せだよ」と言われました。
正論だけれど、すぐには受け取れない言葉でもありました。
悔しかった気持ち、しんどかった気持ちは、確かにそこにあったからです。
けれど、その一言で、自分が何を集めて一日を終えようとしていたのかに、はっとさせられました。

気持ちは自由でも、集め方は選べる

毎日の出来事の中で、何を感じるかは自由です。
悔しさや疲れを感じてはいけないわけではありません。
ただ、そればかりを集めても、状況が変わるわけではないことも、確かです。
どこに目を向けるか、何を拾い上げるかで、同じ一日でも、残るものは大きく変わっていくのだと感じました。

見方が変わると、世界の匂いも変わる

『3びきのかわいいオオカミ』を読むと、この体験を思い出します。
相手との関係だけでなく、自分の気持ちとの向き合い方も、見方を少し変えるだけで、世界の感じ方が変わっていく。
壊すことで終わらせず、香りや色、やさしさに目を向けたとき、同じ場所が、まったく違う時間になることもあるのだと思いました。

絵本紹介

『3びきのかわいいオオカミ』

文:ユージーン・トリビザス
絵:ヘレン・オクセンバリー
訳:こだま ともこ
出版社:冨山房

3びきのオオカミが、お母さんと別れ、自分たちの家を建てます。
ところが、そこへ現れるのは、力の強いこわいブタ。
オオカミたちの家は、次々に壊されてしまいます。

それでも3びきは、相手を打ち負かそうとはしません。
壊されたあとに残ったものを見つめ直し、新しいやり方で、もう一度家をつくろうとします。

物語は、争いを大きくするのではなく、見方を変えた先にある時間へと進んでいきます。
おなじみの昔話の形を借りながら、世界の別の一面をそっと差し出してくれる絵本です。

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おすすめの理由

当たり前だと思っていた役割が、入れ替わったまま描かれるから

この絵本では、見慣れた昔話の役割が入れ替わります。
強いはずの側が傷つき、守る側だと思っていた存在が、脅かす側になる。
そのことについて説明はされず、物語は淡々と進んでいきます。
読み進めるうちに、これまで当たり前だと思っていた見方が、ふと揺らぐ瞬間が生まれます。
その違和感を抱えたまま読めるところが、この絵本ならではの魅力です。

力で解決しない姿が、物語の中に自然に置かれているから

三びきのオオカミたちは、やられたらやり返す、という行動を選びません。
相手を変えようとするのではなく自分たちのやり方を少しずつ変えていきます。
それは正しい行動として示されるわけではなく、物語の流れの中で、静かに描かれていきます。
子どもはその姿を、そのまま受け取ることができます。

出来事を消さずに、時間の手触りが変わっていくから

壊されたこと自体は、なかったことにはなりません。
けれど、どこに目を向けるかによって、物語の雰囲気は少しずつ変わっていきます。
この絵本は、出来事を打ち消すのではなく、受け取り方が変わっていく過程を描いています。
その変化は、誰かとの関係だけでなく、自分の気持ちとの向き合い方にも、静かにつながっていきます。

まとめ

この絵本は、ページを閉じたあともいくつかの場面や色、空気のようなものが、静かに残っていきます。

同じ物語でも、読むときの気持ちや、立っている場所によって、見えてくるものが少しずつ変わります。

子どもの時間の中で出会い、大人になってから、ふと読み返したくなる。
そのとき初めて気づくことがあっても、気づかないままでもいい。

そんなふうに、長い時間をかけて付き合っていける一冊だと思います。

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