『和菓子のほん』

五百円でひらかれていた、小さな豊かさ

娘が小学生だったころ、公民館でお抹茶教室がありました。
参加費は五百円。私は習う側ではなく、娘が点てる様子を、少し離れたところから見ているだけでした。

先生の動きや、娘の手元を眺めながら過ごす時間は、不思議と落ち着いていて、
何かを学ぶというより、その場の空気に身を置いている感覚に近かったように思います。

わたしもお抹茶と和菓子を、先生のご厚意でいただきました。
「どうぞ」と差し出された茶碗を手にしたとき、とても心が満たされました。
手を動かしていなくても、その場に居合わせただけで分けてもらえた、そんな小さな豊かさが、今も記憶に残っています。

味より先に、姿が記憶に残る

抹茶と一緒にいただいた和菓子は、毎回先生の手作りでした。
口にする前に、まず目が留まります。
やわらかな曲線、形の美しさ、控えめな色合い。
派手ではないのに、なぜか心がすっと整うような姿でした。

上品な甘さももちろん覚えていますが、それ以上に残っているのは、手のひらにのせたときの重みや、しばらく眺めていたあの一瞬の静けさです。
和菓子は、食べる前の時間さえ、大切なひとときでした。

あとから思い出になる、手渡された時間

それから先も、手作りの和菓子をいただく機会が何度かありました。
その場では特別だと思っていなかったものも、時間が経つにつれて、ふとした瞬間に思い出として立ち上がってきます。

誰と、どこで、どんな空気の中でいただいたのか。
味だけではなく、その前後の時間ごと、心に残っている。
和菓子は、食べて終わるものではなく、静かに記憶の棚に置かれていくものなのだと感じています。

絵本紹介

『和菓子のほん』

文:中山圭子
絵:阿部真由美
出版社:福音館書店

この絵本には、和菓子の姿が並んでいます。
ねりきり、まんじゅう、羊羹。
形や色、表面のきめが、写真によって一つずつ確かめられていきます。
和菓子は、飾りとしてではなく、手の中に収まる大きさのものとして写されています。

ページを進めると、和菓子に使われる材料や、人の手が加わっていく様子が続きます。
小豆や砂糖、粉や水。
身近な素材が、時間と手間を経て形を変えていく過程が、写真と言葉の積み重なりとして現れてきます。

また、季節や行事に添えられてきた和菓子も登場します。
花の季節、節目のとき、祝いの場。
和菓子が暮らしの中に置かれてきた時間が、一年の流れに沿って写し出されていきます。

この絵本は、和菓子を一つの完成形として並べるだけでなく、材料、手の動き、季節の移ろいまでを含めて、一冊の中に重ねています。
ページを行き来することで、和菓子が生まれてきた背景や、そこに流れてきた時間が、少しずつ立ち上がってきます。

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高齢者へのギフトとしておすすめの理由

和菓子を通して、昔の記憶に触れられる

和菓子は、特別な出来事というより、日々の中に置かれてきたものとして記憶に残っています。
誰かと飲んだお茶の時間や、何気なく差し出された一皿。
そうした場面とともに、和菓子の姿が心のどこかに残っていることがあります。

この絵本に並ぶ和菓子を眺めているうちに、過ごしてきた時間や、かつての風景と重なる瞬間が生まれることがあります。

和菓子が「暮らしの模様」から生まれてきたことに触れられる

この絵本では、和菓子が単体で並ぶだけでなく、着物の柄や器の模様とつながりながら語られていきます。
和菓子の形や色が、突然生まれたものではなく、暮らしの中にあった模様や意匠と響き合ってきたことが、ページの流れで見えてきます。

年齢を重ねてきた人ほど、布や器や季節のしつらえを、生活の中で見てきた時間があります。
その「見てきたもの」と和菓子が結びつくところに、この本を贈る意味がきちんと立ちます。

「見たことのある和菓子」が、別の姿で立ち上がってくる

和菓子の世界には、昔からの絵図帳(絵図)があります。
この絵本には、その存在も出てきて、和菓子が食べものとしてある前に、写し取られ、残され、伝えられてきたものだということが見えてきます。

懐かしさだけで終わらず、「知っている和菓子」が、記録としてもう一度立ち上がってきます。
この重なり方は、この絵本ならではです。

当時は言葉にしなかった「デザイン」に、自然に目が向く

この絵本の良さは、「初めて知る知識」を詰め込む方向ではなく、和菓子の輪郭や模様の由来に、自然と目が向く構成にあります。

着物や器の模様と見比べたとき、和菓子の線や色が、少し違って見えます。
昔から身近にあったはずのものに、もう一段、深い入り口がつくられています。

贈るヒント

絵本に添える一言メッセージ

お茶の時間を思い浮かべながら

和菓子のかたちや色を眺めていると、お茶を囲んだ時間や、向かい合って過ごしたひとときが思い浮かびます。この絵本と一緒に、そんな時間も手渡せたらと思って選びました。

そばに置いておきたい一冊として

ページに並ぶ和菓子を見ていると、ひとつひとつに違う表情があることに気づきます。
この絵本を、そばに置いてもらえたらと思い、手に取りました。

節目に添える気持ちとして

和菓子が、行事や区切りの場に添えられてきたことを思い出しながら、この一冊を選びました。
あらたまった言葉ではなく、ページに並ぶ和菓子に、これまでの感謝を重ねて贈れたらと思います。

形や模様を楽しみたい方へ

和菓子の写真を見ていると、形のつくりや線の取り方、模様の由来に目が向きます。
眺めるだけでも、写したり、なぞったりしても楽しめる一冊として、この絵本を選びました。

まとめ

ページをめくるたびに、形や模様の向こうに、積み重ねてきた時間が静かに現れます。
その時間を、自分の歩幅でたどれること。和菓子という身近な存在を通して、これまでを振り返る場がひらかれること。
そのこと自体が、高齢の方へ手渡したいと思える一冊です。

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