抱きしめ、話しかけ、毎日を一緒に過ごしたもの
幼い頃、いつもそばにいたぬいぐるみがありました。
眠るときは腕の中に抱き、不安なときには話しかけ、外出するときも自然と手が伸びる存在でした。
それは「物」というより、自分の気持ちの居場所のようなものでした。
取り戻せない形で、手を離れた瞬間
家族旅行で船に乗り、海を眺めていたときのことです。
突然の波しぶきに驚き、手にしていたぬいぐるみを、海に落としてしまいました。
探すことも、拾いに行くこともできず、ただ水面から遠ざかっていくのを見送るしかありませんでした。
そのときの、胸の奥が空くような感覚は、今も残っています。
ずっと後になって、物語がつないだもの
ベンジーがもうふと過ごす時間を読みながら、あのぬいぐるみのことが、何度も浮かびました。
もし、ベンジーのもうふのように、誰かに手渡す形で離れていたら、あの別れは違って見えただろうか、と。
けれど同時に、突然だったからこそ、自分の中に深く残ったのだとも感じます。
この絵本は、「手放し方」ではなく、残り続けるものの確かさを、そっと照らしていました。
絵本紹介
文:マイラ・ベリー・ブラウン
絵:ドロシー・マリノ
訳:まさき るりこ
出版社:あすなろ書房
ベンジーには、いつもそばにある大切なもうふがあります。
家の中でも外でも、眠るときも遊ぶときも、もうふは一緒。
手放せないというより、暮らしの中に自然に混ざっているように描かれます。
季節が巡り、ベンジーの毎日が少しずつ変わっていくなかで、ある出来事をきっかけに、そのもうふはベンジーの手を離れます。
けれど、それまでに重なってきた時間が、そこで途切れてしまうわけではありません。
もうふのあった場所には、触れてきた日々の感触が残り、ベンジーのこれからの暮らしへ、目立たない形でつながっていきます。
おすすめの理由
つながっていくのは人生の中で大切にしてきたもの
この絵本に描かれているのは、一枚のもうふです。
けれど読み進めるうちに、それは、これまでの人生で大切にしてきた時間や想い、誰かと交わしてきた言葉の感触のようにも見えてきます。
それらが、人から人へと静かにつながっていく様子が、物語の流れの中に自然に置かれています。
別の存在によって、あたたかさが受け渡されていく
ベンジーのもうふは、やがて別の存在を包むものとして描かれます。
抱きしめられてきたものが、包む側へ移っていく。
その変化が、とても穏やかなかたちで示されています。
読んでいると、自分が包まれてきた時間と、誰かを包んできた時間が、同時に思い浮かんでくる一冊です。
「手放す」よりも、「残っていくもの」に目が向く
もうふは、手元から離れます。
けれど、この絵本で印象に残るのは、失われたものではなく、そこまでに重ねられてきた時間の確かさです。
使われ、寄り添い、包んできた感触が、そのまま次の時間へつながっていく。
年齢を重ねた今だからこそ、その描かれ方が、心にやさしく残ります。
贈り方のヒント
絵本と一緒に添えられる、やさしい一言メッセージ
そばにあったものを、大切にしてきた方へ
「長いあいだ寄り添ってきたぬくもりは、形を変えて、ちゃんと次へつながっていくのだと感じました。このお話が、そのやさしい確かさを思い出す時間になりますように。」
誰かを思って過ごしてきた方へ
「抱きしめてきた時間が、別の小さな存在をあたためていく場面に、心がほどけました。
あなたの時間も、きっとどこかで続いています。」
感謝をそっと伝えたいとき
「これまであなたが大切にしてきたものが、次の誰かを包んでいく。そんな場面に、ありがとうの気持ちを重ねました。」
まとめ
この絵本は、長い時間、使われてきたもうふが、物語の中で「役に立たなくなる」のではなく、
別の存在をあたためる役割を持ち続けるところまで描いています。
体力や立場が変わっても、これまで積み重ねてきたものが、形を変えて生きている姿が見えるからこそ、年齢を重ねた人に贈りたくなる絵本です。


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