『はじまりの日』

梅田の夜と、そこで出会った一曲

大学時代、友人に誘われて訪れた梅田のライブハウス。
今となっては店の名前も曖昧で、場所さえはっきり思い出せません。

けれど、その空間の感触だけは残っています。
地下へ降りる階段の狭さ、外とは切り離されたような暗さ、人の熱気と、グラスの触れ合う音。

その中で、ボブ・ディランの、フォーエバー・ヤングが流れていました。

思い出したのは、曲よりも「場面」だった

長い時間が過ぎてから、『はじまりの日』を手に取った瞬間、先に浮かんできたのは、あのライブハウスの情景でした。

音は、空間ごと、時間ごと、記憶の中に沈んでいたのだと思います。

若かった自分の姿、隣にいた友人の横顔、夜の梅田の雑踏。
それらが、静かに戻ってきました。

同じ曲が、違う年齢で聴こえるということ

当時、この曲を聴くと、理由もなく心が落ち着くと感じていました。
けれど年月を重ね、歌詞が生まれた背景を知ったとき、その落ち着きの奥に、静かな願いのようなものがあったことに気づきました。

若い頃には、ただ音として受け取っていた歌が、今は、時間を通過して届く言葉として響きます。

同じ曲なのに、聴いている自分が違う。
その変化を、この絵本がそっと確かめさせてくれました。

絵本紹介

『はじまりの日』

原作:ボブ・ディラン
絵:ポール・ロジャース
原曲:Forever Young
出版社:岩崎書店

ボブ・ディランが1974年に発表した楽曲「Forever Young」。
その歌詞をもとに制作されたのが、この絵本です。

歌詞の一節ごとにページが展開し、ひとりの子どもが生まれ、成長し、やがて世界へと歩み出していく姿が描かれます。

家族に抱かれる赤ん坊の姿から始まり、少年は外の景色に目を向け、船に乗り、広い世界へ進んでいきます。
出会い、経験し、自分の道を見つけていく過程が、ディランの言葉とともに静かに重ねられていきます。

繰り返されるのは、「どうか、あなたがあなたでありますように」という願いの言葉。
力強さを求めながらも、押しつけにならない祈りが、ページを通して続きます。

巻末には英語の原文歌詞も掲載されており、音楽そのものの言葉にも触れることができます。

ポール・ロジャースはあとがきで、ディランの歌を繰り返し聴きながら絵を描いたと記しています。
一枚一枚に、音楽の余韻が宿る構成です。

物語を読むというより、一曲の時間をゆっくりと味わうような一冊です。

おすすめの理由

ラジオを聴いていた頃を思い出せる

若い頃、家でラジオをつけっぱなしにしていた人は少なくありません。
勉強しながら、仕事の準備をしながら、何となく流れていた洋楽。

その中に、ボブ・ディランの「Forever Young」が混ざっていた人もいるでしょう。

この絵本を手にしたとき、「この声、聞いたことがある」とふと立ち止まる人がいるかもしれません。

音楽を背景に過ごしてきた時間を、もう一度思い出せるきっかけになります。

子どもや孫に向けて願った気持ちと重なる

この歌は、ボブ・ディランが息子に向けて書かれました。

高齢者にとっては、かつて我が子を送り出した日や、孫の成長を見守る時間と重なるかもしれません。

「元気でいてほしい」
「あなたらしく生きてほしい」

そう思ったことがある人なら、歌詞の一節一節が、自分の気持ちと重なります。

若い人への歌が、人生を重ねた人の実感として読めるところが、この絵本の力です。

自分に向けて、静かに受け取る言葉

年齢を重ねると、励ます側に立つことのほうが多くなります。

けれど、この絵本を開いていると、歌の言葉が、自分に向けて差し出されているように感じられます。

どうか、あなたがあなたのままでありますように。
どうか、心の灯りが消えませんように。

今日を生きている自分に、そっと手を添えるような言葉。

長い時間を歩いてきた人にも、やわらかく届く励ましです。

贈り方のヒント

音楽の記憶をたずねて

「どこかで耳にしたことのある音が、またそばに戻ってきますように。」

あの日の景色をそっと重ねて

「心に残っている風景が、やわらかくよみがえりますように。」

これまでの歩みに敬意をこめて

「歩いてこられた時間が、あらためてあたたかく感じられますように。」

今日という日に寄り添って

「いまを過ごす時間が、少しやさしく照らされますように。」

これからの小さなはじまりへ

「明日もまた、静かな光の中で始まりますように。」

まとめ

若い頃に耳にした音楽は、気づかないまま、人生のどこかに残っています。

『はじまりの日』は、その時間を、言葉と絵のかたちでそっと差し出してくれる一冊です。

懐かしさだけで終わらず、歩いてきた道のりにも、いまここにいる自分にも、静かに光を当ててくれる。

音楽とともに生きてきた世代へ。
人生を重ねてきた人へ。

その時間ごと、手渡したい絵本です。

🤍 この絵本について、ひとこと

一文だけでも大丈夫です。
「この場面が好きでした」 「誰かに贈りたくなりました」など、 短い言葉を残していただけたら嬉しいです。

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