わたしには、少し遠かった絵本
夫がとても好きな一冊。
けれど正直に言うと、わたしにはなぜそこまで惹かれるのか、よくわかりませんでした。
ハナのさみしさは感じる。
でも、その先にあるものを、わたしはまだ掴みきれていなかったのです。
夫は「お父さん」を見ていた
夫は言いました。
「あれは、お父さんの分身なんだよ」と。
誕生日にそばにいられなかった父。
けれど、わかっていないわけではない。
ポケットに入ったバナナは、その証だと。
わたしはハナを見ていたけれど、夫はずっと父を見ていたのだと、そのとき気づきました。
いちばん好きな後ろ姿
夫が一番好きなのは、最後のページ。
父とハナ、そしてゴリラの三人の後ろ姿。
そこには、もうさみしさはありません。
取り戻された時間と、これから一緒に歩く未来がある。
同じ絵本でも、見ている場所が違う。
そのことを教えてくれた一冊です。
絵本紹介
『すきですゴリラ』
作/絵:アントニー・ブラウン
訳:山下明生
出版社:あかね書房
ハナはゴリラが大好きな女の子。
誕生日を迎える日も、父は仕事で忙しく、家にはひとりの時間が流れます。
夜、部屋に現れた大きなゴリラ。
そのゴリラとともに、ハナは外へ出かけます。
レストラン、映画館、そして動物園。
誕生日の夜は、特別な時間へと変わっていきます。
やがて朝が来て、物語は静かに現実へ戻ります。
そして終盤、父から動物園へ行こうと誘われる場面が描かれます。
細部に込められた象徴は多くを語らず、読む者に委ねられています。
最後のページには、父とハナ、そしてゴリラの姿。
現実と想像の境界が溶け合うように、三つの背中が並びます。
子どものさみしさと、大人のまなざし。
言葉で説明されない感情が、絵の中で静かに息づく一冊です。
おすすめの理由
色が語る、心の変化
物語は、どこか殺風景な台所から始まります。
冷たい色合い、静かな空気。
けれどページをめくるごとに、世界は少しずつ色を帯びていく。
ハナの感情は言葉で説明されません。
それでも、背景の色、光の入り方、構図の変化が、内側の動きを静かに映し出します。
大人だからこそ、その“色の移ろい”に気づき、心の温度を読み取ろうとしてしまうのです。
見えない表情を読む時間
ハナは大きく泣き叫ぶわけでも、長い独白を語るわけでもありません。
だからこそ、読者は考えます。
「今、どんな気持ちだろう」と。
ページを追うたびに、想像が自然と動き出す。
この“読むというより考える時間”が、思春期や大人にとって深い読書体験になります。
絵本の中で、自分を見つめる
子どもの物語でありながら、これは読む人自身の物語にもなります。
寂しさを抱えた夜。
言葉にしなかった思い。
気づいてもらえた瞬間。
ページの中に描かれているのはハナですが、そこに重なるのは、自分の記憶。
静かな絵の中に、それぞれの人生が映り込む。
だからこの絵本は、子ども向けで終わらない一冊なのだと思います。
まとめ
この物語は、夢だったのか、現実だったのかも、はっきりとは語られない。
けれど、その曖昧さの中に、読む人それぞれの解釈が生まれます。
父の物語として読む人もいれば、子どもの孤独として読む人もいる。
同じ一冊でも、立つ場所によって景色が変わる。
そのこと自体が、この絵本の豊かさです。
読み終えたあと、隣にいる人と、少し話したくなる。
そんな余白を持った一冊です。
🤍 この絵本について、ひとこと
一文だけでも大丈夫です。
「この場面が好きでした」
「誰かに贈りたくなりました」など、
短い言葉を残していただけたら嬉しいです。


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